
少年事件、付添人奮戦記
野仲厚治 著、野仲千尋 イラスト/2016年11月/1600円(税別)
著者からのメッセージ
本書で紹介する少年事件は、新聞やテレビなどのマスコミが報道したようないわゆる重大事件とは縁遠い、むしろ、ごくありふれた事件という方が正解でしょう。私ども弁護士が扱う実際の少年事件とは、こうした「普通の、ありふれた事件」が圧倒的です。
犯罪非行少年は、生まれながらにして犯罪非行の性癖を持っていることはほとんどないでしょう。当然、少年本人の生来の資質が事件に発展することがあり得ても、本書で紹介するような「ありふれた事件」では、特に両親の子育ての過程が、相当程度に影響していることは否めません。古くから語られてきたように、子どもを放任し過ぎたり、逆に過剰に干渉したりすると、子どもの生育にゆがみをもたらしてしまいます。
インターネットの普及による情報化社会の中にあっても、核家族化が進んだ日本社会の家庭では、両親が社会的に孤立している場合が多く、子育ての悩みを受け止めてもらえるシステムが乏しいのが現実です。そのため、特に母親は自分の子育てに自信が持てず、子どもとどう接すれば良いのか分からずに悩み続け、軌道修正ができないままに時間が経ってしまう。
特に、子どもが思春期を迎え、心身共に大きく変化する時期、いわゆる第二次反抗期に入ると、それまでとてもおとなしかった子どもが、急に親に対して「くちごたえ」を始めだし、親の言うことを聞かない、いちいち文句をつける、日に日に親子の間のミゾが深まる、ついには「手が付けられない」と親が嘆くようなことになりかねません。
少しでもこうした親子間のミゾを埋める手だてとして、それぞれのケースにふさわしい対応を、私なりに学び、積み上げてきたつもりです。こうした私の三十四年間の付添人活動の到達点を本書に記して、皆様のお役に立つことができたらと願っています。
(「まえがきに代えて」より)
もくじ
まえがきに代えて
「良い子」の事件
〈第1話〉午前様をしないひったくり少年
〈第2話〉ご近所強盗は中三生
〈第3話〉強制わいせつの中学生は「良い子」だった
女の子の事件簿
〈第4話〉シンナー少女の大変身
〈第5話〉家出歴三十回のつわもの少女
出会いの大切さ
〈第6話〉女友達の一言が少年を変えた
〈第7話〉あるネグレクトの少年
カギは親子関係の修復
〈第8話〉吸った数だけ拾った吸殻
〈第9話〉保護観察中の大麻所持
深刻な背景に寄り添う
〈第10話〉十五歳から抜け出せない万引常習犯
〈第11話〉少年との楽しすぎる会話
〈第12話〉わずか十五歳で知ったドヤ街生活
少年の未来に関わる付添人
〈第13話〉夏祭での不幸な出来事
〈第14話〉十八歳の夏を忘れない
〈第15話〉再犯少年に一粒の種が根付くことを願って
付記 岸和田に保護司の青木さんがいた
あとがき